No.6 東浦のお不動さん

投稿日時: 2014/12/19 図書館管理者
 むかしむかし、東浦が衣ヶ浦の入り江だったころの話です。
 ある春の朝、村はずれの竹やぶに村人がおおぜいやって来ました。
「たしかこのあたりだ。」
「月明かりにピカッと光ったぜ。」
「よし、掘ってみよう。」
 やがて、村人たちは、掘り出したどろのかたまりを池で洗いました。
「おお、これは仏さまだ。」
 それはぴかぴかの金銅仏でした。そして、村一番の物知りのおじいさんにどんな仏さまか聞いてみました。
「これはお不動さんじゃ。吉良でこれとそっくりの仏さんをみたことがあるよ。大日如来さまを守るとても強い仏さんだそうな。」
 それを聞いた村人たちは、村一番大きな松の根元にお堂をたててまつりました。
 ある夏のこと、雷がお堂のとなりの松に木に落ちました。すると、お堂のとびらが開き、「かっ!」と言う声を聞いた雷は、その場に倒れたまま動けなくなりました。これが不動の金しばりです。
「東浦へ落ちるとは、とんでもないやつだ!このおれを知らんか!」
「お不動さんとは知りませんでした。もう絶対に落ちませんからゆるしてください。」
「分かったらよい、今度だけは見のがしてやろう。」
金しばりのとけた雷は、あとも見ずに雲の上へ帰りました。それから、東浦には、一度も雷が落ちなくなったそうです。
 さて、それから長い年月がたったある夏、夕立の中をかけてきた旅の山伏がお堂で雨宿りをしました。
「お堂の仏さんは、いったい何だろう。」と、そっとのぞくと、中にいるのは、じつにりっぱなお不動さまです。
「こんないなかにおいてはもったいない。わしがもらっていこう。」
 お堂でひと眠りした山伏は、お不動さんを背負うと、東へにげました。
 朝、おまいりに来た村人が、中をのぞいてびっくり。だいじなお不動さんのすがたが消えています。
 お不動さんが消えてひと月ほどたったころ、吉良の在所からもどった村人の嫁がこんな話をしました。
「このごろ吉良では、何十年ぶりでお不動さんが帰られたと、評判ですよ。何でも、ひと月ほど前、旅の山伏がお不動さんを背負って、饗庭(あいば)の村中でたおれていたそうな。村の百姓がその山伏を助けて、背負っている仏像を見ると、いつか話に聞いたお不動さんらしい。」と。
 この話を聞いた村人は、5、6人で饗庭へ行き、さっそく仏像を見ました。
「これはまちがいなく、ひと月前、わしらの村でぬすまれたお不動さんだ。ぜひ返してください。」とたのみました。
「それは困る。これは60年ほど前、大津波でお堂ごとさらわれた饗庭のお不動さんで、やっと帰ってこられたのだ。山伏がこの村で動けなくなったのは、お不動さんがここを望んでおられるからだ。今さら渡すわけにはいかないよ。」と聞き入れてくれませんでした。
「先方の言い分もある。来年から縁日には、みんなでおまいりすることにしよう。今まで通りお不動さんは、東浦を守ってくださることだろう。」と、一同は村へ帰りました。
 今も、饗庭のお不動さんのお祭りには、東浦から出かける人もいるそうです。


参考資料:市民叢書『碧南の民話』