No.14 日限地蔵さん

投稿日時: 2014/12/18 図書館管理者
 むかし、大浜にある回船問屋のむすめおさきは、縁あって美濃の国にとつぐことになりました。
 大浜を旅立つ日、おさきと両親は、そろって近くのお地蔵さんへおまいりに行きました。
「おさき、おまえは、わたしたち夫婦が毎日この日限地蔵さんにおまいりしてさずかっただいじなむすめ。これからもお地蔵さんにおまいりをして、おまえの無事を祈っているよ。おまえに不幸があれば、必ず助けてくれるだろう。」こうして、おさきは美濃にとつぎました。

 おさきがようやく山国のくらしになれたろ、玉のような男の子が生まれました。しかし、どうしたわけか、子どもは歩くことができません。やがて2歳になろうとするのに、一歩も歩くことができないのです。
 大人になる大切な儀式をむかえるようになっても、相変わらず歩くことができません。夫や家族は、しだいにおさきと子どもに冷たくあたるようになりました。子どもをつれて死んでしまいたいと何度も思いました。でも、ふるさとで自分の幸せを願っている両親を思うと死ぬことはできませんでした。おさきは、この家を出て、大浜の実家にもどりたいと考えるようになりました。
 そんなある日、おさきは、両親が言ったことばを思い出しました。
「お地蔵さまにお願いしてみよう。なおしてくださるにちがいない。」そう心に決めたおさきは、夫に別れをつげ、むすこをはこ車に乗せると、住みなれた美濃をあとにしました。
 しかし、2人の旅は思うように進みません。むすこは、なん回もはこ車から落ち、すりきずとあざだらけでした。おさきは、自分より大きくなったむすこをかかえあげては、はこ車に乗せ、旅を続けました。
 一軒のげた屋で、むすこは店の人にたのみ、にぎりやすい丸太に歯をつけたげたのようなものを作ってもらいました。両手にそれぞれ丸太のげたを持ち、不自由な足は、はこ車に入れたまま、はうようにして進んでだのでした。まるでかめのような姿のむすこをいっそうあわれに思うおさきは、道行く人の視線なども気にもとめず、ひたすら先を急ぎました。
 やっと大浜に着いた時、おさきはげっそりとやせ、四十前なのに髪はすっかり白くなっていました。むすこの手に持ったげたは、血でまっ赤にそまっておりました。
 お地蔵さんのほほえみに、手を合わせて祈るおさきの目からなみだがあふれました。
「お地蔵さま、お願いでございます。どうか、むすこの足をなおしてくださいませ。ひとりで歩けますように、なにとぞお願いでございます。」
 おさきは、目を閉じ、一心不乱にお願いしました。
 どのくらいたったのでしょう。カタッという音に、おさきがふり向くとむすこがよろよろと立ち上がり、まるで、だれかに手を引かれているように、両手を前に出し、一歩、二歩と足を進めています。おさきは、むすこの手を取るとさけびました。
「おお、おまえ、あるけるのだね。」
「お母さん、わたしは歩けます。」
ふたりは、肩をだき合い、なみだを流して喜び合いました。
 その後、日限地蔵さんは、願いごとをかなえてくださるお地蔵さまとして知られ、多くの人がおまいりに来るようになりました。


参考資料:市民叢書『碧南の民話』