投稿日時: 2014/12/18
図書館管理者
衣ヶ浦という名は、このあたりを支配していた、許呂母之君にちなんで名づけられたといいますが、ほかにもこんな話があります。
むかしむかし、この三河の西北の尾張の国に、タテイナダネノミコトという武将が住んでおりました。このタテイナダネノミコトには、美しい妹がおり、名をミヤズ姫といいました。二人はとても仲のよい兄妹で、子どものころから美しい海が大すきで、砂浜で貝をひろったり、しずむ夕日をながめたりして遊びました。
あるとき、大和の国のヤマトタケルノミコトが、東の方の国を治めようと、尾張の国までやってきました。タテイナダネノミコトは、さっそく力の強いヤマトタケルノミコトのいちばんの家来になりました。そして、タテイナダネノミコトの妹のミヤズ姫は、ヤマトタケルノミコトが戦からもどった時にお嫁さんになることを約束しました。
「どうか、ご無事で。」
ヤマトタケルノミコトとタテイナダネノミコトは、ミヤズ姫に見送られ東の国をめざし、勇んで出発したのでした。
やがて戦も終わり、ヤマトタケルノミコトは、山道を通り、一方、タテイナダネノミコトは、海を船でわたり、二手に分かれて、ミヤズ姫の待つふるさとへもどることにしました。
なれ親しんでいる海にさしかかったところ、今まで見たこともない、珍しい一羽の鳥が、船のすぐ横にうかんでおりました。これを見たタテイナダネノミコトは、
「これはめずらしい鳥だ。りっぱなみやげになるぞ。」
というと、とものものが止めるのも聞かず、ザブーンと深い海にとびこんでしまいました。すると、いつのまにかめずらしい鳥はいなくなり、青い海は、一回、白く大きくうずまくと、タテイナダネノミコトをのみこみ、たちまち静かになってしまいました。
兄の悲しい死の知らせを聞いたミヤズ姫は、泣きながら海までかけつけました。夕日をうつした海は、金色にキラキラとかがやいています。と、足もとに見おぼえのある衣が、ただよっていました。
「ああ、お兄様!」
両手でタテイナダネノミコトの衣を拾い上げると、ミヤズ姫は泣きくずれました。タテイナダネノミコトの衣は大切に葬られました。
それから誰いうことなく、この美しい海を衣ヶ浦というようになったとのことです。
参考資料:市民叢書『碧南の民話』